従来の西洋美術で一般的だった一点透視法を捨て去り、物体を幾何学的な形状に分解し、異なる視点からの視覚情報を同時に表現するという新しい技法を取り入れた。
2つのキュビズム?
キュビズムは、分析的キュビズムと統合的キュビズムという2つの主要なフェーズに分けられる。
分析的キュビズムは、1907年から1912年にかけての時期に展開され、物体を細かく分析し、それを幾何学的な形状に分解して再構成することに重点が置かれていた。この時期の作品は、色彩が抑制され、構成要素が複雑に絡み合うことが特徴だ。
統合的キュビズムは、1912年から1920年代初頭までの時期に発展した。
このフェーズでは、様々な視点や素材を組み合わせて一つの画面にまとめる手法がとられた。
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泣く女 1937 スペイン内戦を背景にした悲しみと苦悩を描いている。歪んだ顔や大きな涙が特徴的で、戦争の悲惨さを象徴している。 |
新たな視点をもたらしたキュビズム
ピカソのキュビズムは、従来の美術に新たな視点をもたらした。
例えば、ピカソの代表作「アビニヨンの娘たち」(1907年)は、キュビズムの端緒となる作品で、古典的な人物画を打破する革新的な試みがなされている。アフリカ彫刻の影響もあったとされている。
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アビニヨンの娘たち |
また、彼の「ギター」シリーズ(1912年-1914年)では、立体的なオブジェクトを平面的に表現することで、物体の形状や質感を抽象的に捉える技法が試みられている。
キュビズムは、美術史に大きな影響を与えた。
後の抽象表現主義や未来派、構成主義などのさまざまな芸術運動に多大な影響を与えることなった。
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ゲルニカ 1937年 スペイン内戦中のナチス・ドイツ軍によるゲルニカ市への無差別爆撃を題材にした作品。この作品は、戦争の悲惨さと非人道性を訴えかける象徴的なもので、悲惨な惨状を抽象的な形態で描かれている。 |
さらなる発展
ピカソとブラックが開拓したキュビズムの手法は、20世紀以降の美術家たちによってさらに発展し、現代美術にもその系譜が引き継がれている。
キュビズムはまた、西洋美術において伝統的な審美観や表現方法を根底から覆すことになった。物体や空間を従来の見方ではなく、新しい視点から捉えることで、画家たちは作品に独自の解釈や個性を投影することが可能となったのだ。
これは、芸術家たちによる自由な表現の追求として、現代美術の基盤となる考え方を築いたと言えるだろう。
また、キュビズムの理念は、美術だけでなく建築やデザイン、映画など他の創作活動にも波及した。
幾何学的な形状や構成要素の組み合わせ、異なる視点からの視覚情報の表現など、キュビズムから着想を得たさまざまな分野で新しいスタイルが生まれていった。
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映画 バレエ・メカニック 1924年 フランスのキュビズム画家、フェルナン・レジェによって制作された実験的映画。 キュビズムの影響を受けた映像表現が特徴的な作品だ。視点の多様性や断片的な表現手法が取り入れられている。 |
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黒い聖母の家 チェコのプラハでキュビズムが建築にも応用された。 ヨセフ・ゴチャールが設計した「黒い聖母の家」は独特な幾何学的フォルムやファサードのデザインが特徴的だ。 また、「グランド・カフェ・オリエント」というカフェが入っており、内部もキュビズム様式でデザインされている。今では有名な観光名所にもなっている。 |
ピカソのキュビズムは、20世紀初頭の美術界に革新的な変化をもたらし、その後の芸術家たちに多くの示唆を与えた。
現代美術の基盤を築く上で、キュビズムは決して避けて通れない重要な運動であり、その意義は今後も研究や創作活動の中で引き継がれていくことでしょう。
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